恋色カフェ
「──彗さん。今ちょっと、いい?」
一通り、棚の商品を直し終わったタイミングで、後ろから声を掛けてきたのは、勝沼君。
「さっき店に来たばかりだし、悪いけどまた後で」と言うと、今混んでないんで大丈夫ですよ、と怜ちゃんに笑顔で送り出されてしまった。
廊下に出ると、冷房の効いている店内と違い、じわりと汗が出てきそうな熱気が一瞬にして体にまとわりつく。
──あれから、彼とは気まずいまま、だ。
「ここは暑いから、休憩室行かないすか」
「あまり、時間取れないよ」
「……わかってる。手短に済ますから」
事務所に入らなければ問題は無いか、と彼の後を付いて階段を上る。休憩室の空調は切られていたものの、確かに廊下よりも涼しかった。
「……どうしたの?」
気まずさを無理矢理隅っこに押しやり、努めて笑顔で勝沼君の方を向く。彼は私と目を合わせず、俯いたままで。
「……万由さんの無断欠勤の理由って、やっぱ店長がらみなんすか」