恋色カフェ
言っちゃった、と、ポツリと落とされた彼の言葉が、思いの外室内に響いた。
「俺のこと軽蔑するって、汚い奴だって言って下さいよ。……その方が、すっきりするし」
「……言えないよ」
「なんで! ちゃんと俺の話聞いてた?」
私が、そんな言葉を言える訳が無い。
「……自分以外に、その人のことを好きな人がいても、その人の気持ちが違うところにあるってわかってても、心が動いてしまうのはどうしようもないことだと思う。
……だってそれが、恋、ってものでしょう?」
恋の毒牙に掛かれば、誰だってひとたまりもない。どうすれば甘い蜜を吸えるだろうかって、どんどん欲深くなっていく。
勝沼君も、万由さんも、もちろん私も。毒牙に掛かった一人、なのだ。
「優しいんだか残酷なんだか……」
「私も勝沼君と同じ、なんだもの。否定出来る訳ないよ……」
私は事務所側の壁を見つめた。
私が手を伸ばそうとしているものは、もう甘い蜜ではなく、苦い水に変わってしまっているのかもしれない。
──それでも。
私は手を伸ばさずにはいられない。