恋色カフェ


言っちゃった、と、ポツリと落とされた彼の言葉が、思いの外室内に響いた。


「俺のこと軽蔑するって、汚い奴だって言って下さいよ。……その方が、すっきりするし」

「……言えないよ」

「なんで! ちゃんと俺の話聞いてた?」



私が、そんな言葉を言える訳が無い。


「……自分以外に、その人のことを好きな人がいても、その人の気持ちが違うところにあるってわかってても、心が動いてしまうのはどうしようもないことだと思う。

……だってそれが、恋、ってものでしょう?」


恋の毒牙に掛かれば、誰だってひとたまりもない。どうすれば甘い蜜を吸えるだろうかって、どんどん欲深くなっていく。

勝沼君も、万由さんも、もちろん私も。毒牙に掛かった一人、なのだ。



「優しいんだか残酷なんだか……」

「私も勝沼君と同じ、なんだもの。否定出来る訳ないよ……」


私は事務所側の壁を見つめた。

私が手を伸ばそうとしているものは、もう甘い蜜ではなく、苦い水に変わってしまっているのかもしれない。


──それでも。

私は手を伸ばさずにはいられない。


< 508 / 575 >

この作品をシェア

pagetop