恋色カフェ


「彗のことになると、俺は自制が効かなくなるらしい。客観的に見ればおかしなことになっているとわかってても、感情が暴走して止められない」


店長は私を少し離し、私の顔を覗き込む。コーヒー豆をそのまま噛み潰したような苦い顔をして、私の瞳に溜まった涙を指で優しく拭った。


「結局大事な彼女を満足に守れないで、それどころか逆に不安にさせて、泣かせて……」


思いがけず聞こえた『彼女』という言葉が、胸にじわりと沁みこんでいく。

勘違いじゃない、って思っていいだろうか。私のことを、そう言ってくれたんだよね……?


「口に出さなければ、伝わらないこともたくさんあるものなんだな。俺は、言葉なんか無くとも、態度で十分伝わると思っていたから。彗がそんなに不安に思っていたなんて、知らなかった」


俺達は言葉が足りな過ぎた。そう言い添えた店長に、私も頷いてみせる。





「……で、俺の気持ち、訊きたい?」


今まで沈んでいたかと思いきや、今度は不敵に、口の端を弓形に上げている。

この期に及んで、まだはぐらかすつもりなんだろうか、この人は。



「聞きたいに決まってるじゃないですか」

「そうなんだ」

「そうなんだ……って」

「だって、もう十分言ったようなもんじゃない?」


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