恋色カフェ
店長は心底可笑しそうに声を上げて笑う。
何を企んでいるのか。それ以前に、店長は一体どこに行こうとしているのだろう。
鍵を掛けている間も、彼は私の肩から手を外す気配はなく、がっちりと掴んだまま。
「あの……逃げたりしませんよ」
「いいから」
そろそろ夜も深くなってきたせいか、飲み屋街から流れてくる酔っぱらいが多い気がする。
――もしかして。絡まれないように守ってくれている?
ザリ、と近くから、誰かの地面を踏みしめる音が聞こえて、思わず肩が上がった。
「どうした?」
「……いえ」
一瞬、秀人のことが頭をよぎったせいだ。
街灯はあるものの、私達の位置から近すぎて、かえって今は人の顔が判別出来ない。……その前に後ろを振り向く勇気もないけど。
「駐車場まで、このままで」
肩に置かれた手に、力が込められる。この不安な状況でも、心臓は勝手に跳ねるから困る。
店長がどういう訳で私の肩を抱いているのかはわからないけど、今はありがたく彼の手に守られることにした。