恋色カフェ


「どっち、って……」


店長の家に行く、と言うのは恐らく、そういうこと、を意味している。それぐらいの気配はわかる。

自分から『店長の家に行きたい』というのはつまり、そういうことをしたい、と遠まわしに言うことになる訳で――。


「彗が決めて」


もしかしたら、からかってる?

そんな考えも一瞬よぎったけど、どうやらそういう訳でもないらしい。運転席の彼は、ずっと真顔だ。



「そんなこと、言われても……」


そう言いながら、ふと以前店長が家に来た時のことを思い出した。

あの時も店長は、キスより先に強引に進むことはしなかった。


「……強引、だったんじゃないんですか」


恨めしく、彼の顔を見つめる。



「……ここから先を強引にしたら、彗を傷つけそうな気がして」


時々、弱いところを見せるのは何故。

傷つけそうだと言った本人が、傷ついたような顔をしている。


そんな顔されたら、選択肢は一つしか無くなってしまうじゃない。


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