恋色カフェ
「……遠回り、しましょう」
「遠回り?」
「あの、刑事ドラマとかでよく見る……」
「ああ。“撒く”ってやつ?」
「それ、です」
何だか悪いことしてるみたいだな、と店長は笑っている。
まさか、とは思うけど……念の為に。
「……何か、心当たりでもあるの?」
思いがけずそう訊かれて、ドキリとする。もしかしたら、不安が顔に出てしまっていたのかもしれない。
私は「無いです」と言いかけて、止めた。事務所で、店長に言われた言葉を思い出したからだ。
――そっか。
人の心を疑うのは、自分が隠し事をしているせいでもあるんだ。ようやくここにきて、そんな単純なことに気づいた。
「……はい」
「あるんだ」
「……」
「話してよ」
とはいうものの、店長に元彼のことを話していいものか、迷う。
躊躇していると、店長の手が私の手の上に置かれた。
「変な遠慮はしなくていいから」
事務所ではひんやりしていた店長の手は温かくて、その熱はじわりと心にまで広がっていく。
私はその手に、自分の指を絡めた。