恋色カフェ



「……遠回り、しましょう」

「遠回り?」

「あの、刑事ドラマとかでよく見る……」

「ああ。“撒く”ってやつ?」

「それ、です」


何だか悪いことしてるみたいだな、と店長は笑っている。


まさか、とは思うけど……念の為に。



「……何か、心当たりでもあるの?」


思いがけずそう訊かれて、ドキリとする。もしかしたら、不安が顔に出てしまっていたのかもしれない。

私は「無いです」と言いかけて、止めた。事務所で、店長に言われた言葉を思い出したからだ。


――そっか。

人の心を疑うのは、自分が隠し事をしているせいでもあるんだ。ようやくここにきて、そんな単純なことに気づいた。



「……はい」

「あるんだ」

「……」

「話してよ」


とはいうものの、店長に元彼のことを話していいものか、迷う。

躊躇していると、店長の手が私の手の上に置かれた。


「変な遠慮はしなくていいから」


事務所ではひんやりしていた店長の手は温かくて、その熱はじわりと心にまで広がっていく。

私はその手に、自分の指を絡めた。


< 536 / 575 >

この作品をシェア

pagetop