恋色カフェ
「……元彼が、私の所にお金を借りに来るんじゃないかって」
「お金?」
「何だか、多額の借金を抱えているらしくて……」
「……ああ、それでか」
意外な言葉が耳を掠め、私は驚いて店長の方を向いた。
「この間、店に友達来てたでしょ。深刻そうな顔を突き合わせてたから、気になってたんだよね」
「見てたんですか……?」
「仕事はしてたよ、ちゃんと」
店長は、ふふ、と小さく笑って、私が繋いだ手をギュッギュッ、と何度か握ってみせる。
……気にしてくれていたんだ。
こんな状況なのに。打ち鳴らす鼓動が、胸の奥に甘い感情を広げていく。
「じゃ、遠回りするか」
そう言って店長が通った道は、夜景の綺麗な場所が多かった。それが意図的なのか、偶然なのかはわからない。
――もしかしたら、万由さんともこの辺りに来たのかも。
一瞬、そんな嫌な思考が頭を占めそうになったけど、繋がれた手を見ていたら、もうそんなことはどうでもいいか、という気になった。
それから。
店長の家に着くまでの間、どうしても仕方のない時以外はずっと、手は繋がれたままだった。