恋色カフェ
車が着いた先は、素敵な外観のデザイナースマンション。
離婚後は実家に戻ったとばかり思っていたのに、店長の話によると、離婚する前から1人でここに住んでいるらしい。
「うまく撒けたみたいだな。まあ、本当につけられていたのかはわからないけど」
店長は車を降り、駐車場脇のプレートにキーをかざしている。ここはセキュリティがしっかりしていて、駐車場から直接部屋の方に行けるから、と降りる前に説明してくれた。
それにしても。
店長が、こんな高級そうなマンションに住んでいたなんて。今更ながら、私の住んでいる安アパートに来させてよかったんだろうか、と申し訳ない気持ちになる。
「どうした?」
「何だか……気後れして」
「セキュリティが厳重だから?」
「それも、あるけど……」
店長は小さく微笑む。
「俺にはさ。良くも悪くもモリヤコーポレーションの社長の長男、っていうご大層なものがくっついてるからね。
俺は大金も金目の物も持ってないけど、世の中の人間はそうは見てくれないってこと。ここに住んでいる理由は、ただそれだけ」