恋色カフェ


「何か、食べるもの買いに行きますか……?」


いつもの店長に戻ったとはいえ、一点だけ気になることがある。

それは、相変わらず掴まれているこの手、だ。


「……いや」


食べなくてもいいと思ったのかな、などと暢気な考えが頭に浮かんだ、刹那――。

コツリと額に走った衝撃に、私は瞠目した。



「つかまえた」

「な、っ……」

「いい加減、目を逸らすなよ」


店長は、自分の額を私の額に押し付け、じっと私の目を見つめる。

近すぎてあまりピントが合っていないものの、楽しそうに歪んだ唇が私の胸を震わせた。



目を逸らしたいと思うのに。

捉えられて、離せない。


空気が、色が――変わる。



「……っ」


強引に奪われるかと思えば、触れるだけの優しいキス。

恐る恐る目を開けると、優しく微笑む店長の顔が視界に飛び込んできた。



「緊張してる……?」


そんなこと、訊かないでほしい。

余計に恥ずかしさが襲ってきて、顔から火が噴き出そうだ。


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