恋色カフェ
「悪かったよ」
一度だけ紫煙を吐き出すと、店長は灰皿に煙草を押し付けた。
「お詫びに、今度は彗が俺を恥ずかしくさせていいから」
「恥ずかしく、って……」
意味が分からず困惑していると、腰の辺りに腕が回り、強く引き寄せられる。2人の間にあった隙間は、あっという間に1ミリも無くなってしまった。
「彗からキスして。俺が恥ずかしくなるような、凄いやつ」
「ええっ?!」
「それで相殺、ってことで」
そう言って店長は目を瞑る。滅多に見ることのない、彼の無防備な顔。こんな顔を間近で見せられて、心臓が騒がない訳がない。
――理不尽な要求をされているというのに。
もう少し、この顔を見ていたくなる。
「……そんなの、おかしいですよ」
胸に芽生えた欲求を無理矢理振り払い、絞り出すように訴える。やっぱりどう考えても、恥ずかしいのは私の方だ。
恨めしく店長の顔を見つめていると、不意に片目を開けたものだから、心臓が飛び出そうになった。