恋色カフェ
「あのさ。この顔見せてるのも、結構恥ずかしいんだけど」
早くして、と急かす言葉を付け加えて、また店長は目を瞑る。
いつも高いところから私を見て、からかって、いいように操って。
その足元を思いきり崩してやったら、この人はどういう反応をするんだろう。
――今までの場所から、一歩踏み出す為にここに来たんでしょう?
私は彼の頬に指を這わせ、思い切って唇を重ねた。
店長を少しでも動揺させてやりたくて、思いつくままに、それは必死で。
「……ん……っ」
主導権は私が握っている筈なのに。
唇から漏れた、自分の厭らしい声に動揺する。私が先に動揺して、どうするの。
「彗……」
ほとんど唇を重ねたまま、店長は切ない声で私の名前を呼んだ。
「どこで……覚えたの、そんな……」
「……え」
「…………妬ける」
ギュッと強く抱きしめられ、ソファーの上にそのまま倒される。息が、荒い。店長のスイッチが切り替わったのがわかる。
少しは足元を崩せたんだろうか。
そんな余裕はすぐに、私がしたのよりももっと濃厚なキスで吹き飛んでしまった。