恋色カフェ

前進



■□■□■□■



目を覚ました、というはっきりした感覚はなかった。

境目も曖昧なまま、ずっと、夢と現実の間を行ったり来たりしていたから。


ぐるりと、体を真横に向けてみる。

隣には、穏やかな寝息を立てている店長がいた。


――良かった。

この状況は、ちゃんと現実だ。


今、何時だろう、と部屋を見回せば、カーテンの隙間から明け方を思わす光が淡く漏れている。


多分、ちゃんと眠ったのは、午前3時を回った頃だと思う。それまで私達は、何度も何度も、今までの分を取り返すように抱き合った。



店長を起こさないようにと、私はゆっくりした動作で、自分の鞄へ手を伸ばす。


(6時……か)


携帯の時刻表示が、容赦なく突きつける現実。

今日も仕事だから、もうそろそろ動かなければ間に合わない時間だ。


ふう、と小さくため息を吐き出し、私はなるべく揺らさないように気をつけながら、ベッドから起き上がった。


――このままでいられたらいいのに。


一瞬浮かんだ、絶対に叶う筈のない思いを心の隅に追いやり、私は床に散らばっていた下着を拾う。


< 551 / 575 >

この作品をシェア

pagetop