恋色カフェ
大変だろうけどよろしく頼む、と言って、店長はヘッドボードの上に置いていた煙草に手を伸ばした。
「ベッドで吸ったら危ないですよ」
「う……」
そう言って、煙草をわざと店長の手から取り上げると、彼はまるで子供が母親に叱られた時のように、しゅんとした顔をした。
――店長って、そんな顔もするんだ。
いつもとのギャップに、私は思わず吹き出してしまう。
「……なに笑ってんの」
「だって、何だか子供みたいで」
私に笑われたのが面白くなかったのか、彼は口を尖らせて私の手から煙草を奪い返した。
「大の大人掴まえて、子供とか言うなよ。男っていう生き物は些細なことでも傷つくんだぞ」
冗談ぽくそう言うと、店長は立ち上がって、ベッド脇の椅子に腰を下ろす。ベッドに一人取り残された私は、店長が煙草に火を点けるのを、黙って見つめていた。
…………傷つく、か。
「……私、煕さんにどうこう言えるような立場じゃなかったんですよね」
「ん?」
「これ以上、誰かを傷つけてほしくなかった、なんて」