恋色カフェ


「なんでそれを早く言わないんだよ」


ため息混じりにそう言いながら、店長はまだ私の髪を掻き回している。


「そもそもは、俺が原因だったんじゃないか」

「別、に、店長にだけ、責任があった訳じゃ……って、髪……っ」


頭に手を伸ばして店長の手を止めようとすると、逆にその手を掴まれてしまった。



「……やっぱり、俺に相談してほしかったよ」

「……」

「勝沼じゃなくて、俺に」

「……ごめんなさい。あの時海外にいた店長に、心配かけたくなくて……」

「気遣いはありがたいけど、結果、彗はずっと苦しんでいるんじゃないか。

……いや、違うな。彗を責めるのはお門違いだな」


掴まれていた手が離される。店長は自分が乱れさせた髪を優しく手櫛で撫で付けると、私の頭を自分の方へと引き寄せた。



「悪かったのは、全部俺だ」


彼の切ない声が、頭上から降ってくる。


「もっといろんなことを話して、ゆっくり関係を深めていれば、彗だって迷わず俺に相談出来ていた筈なんだ。

なのに、俺はありえない奇跡に舞い上がって……」

「……舞い上がってたんですか?」

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