恋色カフェ


「店長……あの時は、生意気ですみませんでした」


私は過去を懐かしむ前に、謝罪を口にした。


あの頃の私は、まだ社会の仕組みもよくわかっていなかったくせに、口だけは達者だった。

こうして今、店長に素直に謝罪出来て良かったんだ、と。私はこの再会を前向きにとらえることにした。



「いや。俺もあの時、まだ24歳の若造だったからね。お互い様だよ」


そんな、優しい目を向けないでほしい。

あの頃の想いが蘇りそうで……怖い。



「ところで、そんなスーツなんか着て……今、営業でもやってんの?」


「……いえ。


あ……実は、就活中なんです」


こんな惨めな状態で再会してしまった運命を、酷く呪った。

せめて『大手企業に勤めてるんです』ってカッコつけたかった。



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