恋色カフェ





ゴトン。


机に置いたマグカップが、思いのほか大きな音を立ててしまった。事務所に誰も居なくて良かった、と胸を撫で下ろす。


普段は皆の手前、休憩時間にしか飲み物を口にしないようにしているのだけど。


私はまたそれを持ち上げ、液体を口に流し入れた。インスタントコーヒーは、やっぱりどこか物足りない。



避けられていた訳じゃなかったのは、良かった、けど。


何度コーヒーを流し込んだところで、モヤモヤと胸に蘇ってしまった、認めたくない感情まで流れてくれることはない。


わかっていながら、最後の液体を口に流し込んでいる、と。



「お疲れー」


ガチャリ、という音と共に、突然その声が耳に飛び込んで来て、危うくコーヒーを噴き出すところだった。


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