恋色カフェ
じゃあお先、と万由さんは私に手を振って、事務所を出ようとしたところで、すれ違いに店長が入ってきた。
万由さんは店長を呼び止め、仕事の話をしている。
──あぁ。万由さん、嬉しそう。
きっと昔の私も、不用意にこんな顔を店長に向けていたのかもしれないな。
さっきのモヤモヤが再発しそうになって、自然を装い、私は机に置いていた伝票に視線を落として、視界から2人の姿を消した。
「今度こそじゃあね、彗ちゃん」
「あ、あぁ、うん。お疲れ様」
突然呼ばれた名前に慌てて顔を上げ、万由さんに挨拶を返す。
手を上げた万由さんは、さっきよりもいい笑顔を見せていた。