恋色カフェ


店長に手首を掴まれ、私は事務所からどこかへ連れて行かれようとしている。



ドクドク、と体中の血が一点に集中する。

掴まれた手首が、酷く、熱を帯びる。



「ど、何処へ行くんですかっ」


黙っていたら、眩暈がしそうだった。

余計なことも頭をよぎりそうになって、それを自分の声で掻き消さなければ、もう引き返せない気がした。



「階段気をつけて」

「答えになってませんよ」


店へと足を踏み入れると「カウンターに座って」とようやく手が離される。



手首に残る、店長の、手の感覚。

温もりが消えたら、ポカンと穴があいたような心細さに襲われた。



「はい。約束の残業代」


コトン、とテーブルに置かれたのは、ブレンドコーヒーと、


「……これ、何ですか?」


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