あなたを愛した(完)


 自転車で十分くらい行ったところに、河原にサクラがいーっぱい植わってる。



あたしは和人に自転車の荷台に乗せてもろてここまで来た。



「うっわー……、去年より綺麗に咲いてるやん。なあ和人、めっちゃ綺麗ちゃう?」



「ん……綺麗だな」



 一面綺麗に咲き誇るサクラを見ても、和人は顔色一つ変えへんかった。



どうしたんやろ和人。いつもやったら絶対に喜んでくれんのに。……今日は、ほとんど笑ってくれへん。



「なあ和人。……なんかあったん? 今日の和人、おかしいで? なんやえらい暗い顔してるやん」



あたしが心配そうな顔してたんか、和人はちょっと吃驚した顔して優しい言葉くれた。



「なんでもない。心配してくれるのか? ……ありがとう」



あたしとは違う関東の喋り方する和人の「ありがとう」は、どっか冷めた感じがしてたんやけど、今はすっごいあったかいなって感じた。



「サクラ、綺麗だな。紗江……サクラ、好きか?」


「サクラかあ。 うん、好きやで。和人は?」


「俺? ……俺も、サクラは好き。でも、サクラより紗江の方が好き」


「――え?」



紗江の方が、好き。今そう言わへんかった? あたしの耳がおかしなったんかな……。



そう聞こえた気いすんねんけど。




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