あなたを愛した(完)
昔聞いたことある。


六花鬼の話。あたしは信じひんかってんけど、おばあちゃんがすんごい信じてて、そのときに逢った六花鬼のこと好きやったて言うてた。



……今はいいひんけど。



「和人……。なあ、鬼って本間に――」


「っ……」


「和人……!?」



溶けはじめたんやろか。春やのに、和人の肌には薄っすら汗が滲んでる。



「どうしたん和人?」


「始まった……みたい、だな……」



始まった? もしかして……和人の身体が溶けはじめたってこと?



「……嘘やん和人、本間に鬼……やったん……?」


 おばあちゃんの話がありありと蘇る。



目の前で溶けてった彼の姿を見たおばあちゃんの衝撃が、今ここにあるかのようや。



「言っただろ……」



立ってるのも辛くなったんか、和人は膝を地面について息してる。



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