あなたを愛した(完)
「俺がしてやれることは、もうこんなことしか残ってない」



優しい、あったかい声。あたしの大好きな声。



和人の手があたしの頬に触れて、撫でてくれる。



「こうして紗江の涙拭うの、もう何回目だろうな。それも今日で最後か……」


「嫌や和人。あたし、嫌や……!」


「……運命は、変わんねえんだよ。もうどうこうできることじゃ……なくなった。俺の身体も既に溶けはじめてる」



頬を撫でる手から、ヌルってしてる感覚が伝わってくる。



「本間や、溶けてる……どうしょお……どうしょお和人、溶けてる……! 溶けてるやんっ……」


「もういいよ紗江。俺は十分なんだ。短い命でここまで幸せだった六花鬼なんて、俺くらいなもんだと思うくらいに幸せだった。ありがとう、絶対忘れない」



……ありがとう? 忘れない? やんやねんそれ。



「なに言ってるん和人。まだ、まだあたしら……」


「苦しいんだ。息が、できな……い……。俺はもう無理なんだろうな……さようならだ、紗江。もう会えない。でも……、終わりじゃない」


「和人っ」


さっきより溶けてる。和人の身体が透けて、むこっかわのサクラがモヤーッて見える。
あたしが和人の背中に回した手も見えるねん。



「和人、身体が透けてきてるやん……」



和人はふって笑った。そいで、これが最後の、あたしが聞く和人の声やった。




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