あなたを愛した(完)
「……ありがとう、紗江。お前のことは忘れ……な、い……」



声も出えへんのやろう。



和人の口は動くばっかりで言葉になって聞こえへん。



和人もそれに気い付いたから、黙ってあたしを見つめてくれたんやけど……。



その優しい光宿した瞳が、妙に寂しい見えるんや。



「和人、あたし……」



手とかサクラが透けて見えるだけやのうて、あたしの手が和人の身体に埋め込まれるようにして入ってく。



溶けて柔らこうなってたんやろか。



和人はちょっと痛そうやったけど、それでも笑ってる。



……寂しそうに、優しゅう。



「あたしも和人んこと、好きや。今まで言えへんかったけど……好きやねん」



さっき分かったばっかりのあたしの気持ちやけど、やっぱり言うとかなあかんよな。



っていうか、言いたいから。



和人には、和人本人には、一番言いたいし伝えときたかったし。



「……ッ」


「無理せんでええよ和人、分かる」



声になってへんけど、和人の唇が確かに“ありがとう”って言うてたから。



あたしはもう……ええ。



「あたしこそありがとうな、和人。あたしも忘れへんから、な……」



なんも見えへん。涙でいっぱいや。



透けてる和人も見えへんやん、あたし本間あほ。和人んこと見えへんやん……。






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