つないだ小指
「佐伯さんてモテるわよね。

綾波部長ともいい雰囲気だし、

専務とは婚約してるんでしょ、

婚約発表がある前はかなりの男子社員が狙ってたらしいし、」

「そんなことありませんよ。」

やんわり否定していると。

「悪女って言われてるのしってる?」

「大人しくしてないと婚約解消とかされちゃうんじゃない。」

なんで、こんな席で言われちゃうわけ、

この人たち私にどんなリアクション期待しているの。

「ちょっと、佐伯さんビ-ル5本追加ね!」
 
 設楽さんが雰囲気を察して私に呼びかけた。

「はい!」

その場を離れようとしたとき腕をグッとつかまれた。

振り向くと、串枝 萌香(くしえだ もえか)さんが睨んできた。

「逃げないで、綾波部長に手を出さないで。

 あなたが思わせぶりな態度とるから彼は私を捨てたのよ。」

「は?」

初耳だった。

ポカンとしている私の腕を離して出口に向かって行ってしまった。

「佐伯さんビ-ルもう5本追加!」と設楽さん。

はっとして、店員さんに10本追加を告げた。


捨てた?って春日って付き合ってる人いたんだ。

私、自分のことばかりで、春日のことを知らなかったのだと気がついた。

どっち道、私と春日はもうない。

この間私ははっきりと伝えたのだから。




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