つないだ小指
第三章 社会人

卒業

郁人が帰ってきてすぐ私も卒業に向かって忙しくなった。


卒論が思いのほか難航し、提出日ギリギリになってしまった。


卒論面接の三日前に完成し提出したときは、


学生課の主任にもゼミの教授にも思いっきり嫌味をいわれてしまった。


面接もボロボロでまた留年かもとかなり落ち込んだ。


自己評価は思いっきり低かったのだが、Sの判定を貰えた。


教授は題材選びと、切り口が良かったとほめてくれた。


まあ終わりよければすべてよしだよね。


就職の方も忙しくなり内定者をあつめた懇談会や研修会が行われた。


会社の中の様子や、新人となる心構えなどを知ることのできる機会を設けてくれ


ている。と言えば聞こえがいいが、やる気があるか、続ける根性があるかはかる


ためのものだ。希望があればそのままバイトすることもできるらしい。


「佐伯菜々美です。よろしくおねがいします。」


受付で名前を言うと、サッと空気がかわった。なに?


私の怪訝そうな顔をみると受付の人が、


「あなたですね。今年の入社試験トップの方は。内定おめでとう。」


「え、ありがとうございます。」


「意外でした。こんなかわいらしい人だったんですね。」


「はあ、ありがとうございます。」


「おい、新人ナンパしてるなよ。風紀疑われるだろ。」


聞きなれた声がして振りかえる。


「待ってたぜ、菜々美。」


「は、えっと綾波さん。」


「関心関心、苗字で呼ぶとはね。まあがんばれよな。」


「ありがとうございます。」

クッなんか屈辱だ~、春日のやつおぼえてなさいよ


「あの、綾波と知り合いですか。付き合ってるとか。」


答える義理はないが誤解受けたくないので、


「大学の同期です。私一年休学したので今頃入社なんですけど、


エラそうにされてくやしいです。」

「くすっ、安心しました。


では、私も同期になり損ねましたね綾波とは同期入社です。


出雲駆と言います同じ科になりたいものです。以後よろしく。」


あまり、よろしくされたくないかも。


これって青田刈り的な?ナンパでしょ。



郁人ぉ大丈夫なの?この会社。
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