つないだ小指
「ここ?」


「俺の部屋。」


「だって宿泊棟は、別でしょ。」


「俺は特別なの。  ちょっと話があるんだ入って。」


どきどきした。家に居る郁人とは違う大人の顔の郁人だった。


「最初に言っとくけど研修明けても俺ここに残るから。」


突然の言葉にどう反応していいか戸惑った。


「とりあえず1年は帰れない。戻ったら荷物まとめて少し送ってもらえる?

 リスト後で渡すから。」


ああそうか、動き出した時計は留まってはくれない。

私は社会人になり、郁人はさらに前に進まなくてはならない。


「うんわかった。」


「そんな顔するなよ、毎日メ-ルするし電話するから。」


「こっちに工場に、新しい部所を作る。

 香奈子さんが立ち上げていた彫金ライン

 香奈子さんが亡くなって立ち消えてたんだが、

 今年の新入社員の採用はこのための採用なんだ。」


「じゃあ、私も?」


「いや、愛菜のこともあるし菜々美はここには連れてこれない。分かるよな。

 俺も,親父も家に戻れなくなることが多くなるけど愛菜のこと頼むな。」


「郁人は、平気なんだね。」     さみしいよ。


「ごめん。急にこんな話で、

 実は前から決まってたことなんだ。  

 言い出せなかった。

 指輪に拘ったのも俺の不安を取り除きたかったからで、

 その、ごめん。」


「いいよ、わたし、決めたんだもん。向こうでがんばる。

 愛菜のことも任せて!」


 さみしいよ。
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