つないだ小指
休憩室はガランとして、誰もいない


「コ-ヒ-ミルク入りでよかったよね。」

コ-ヒ-を差し出しながら、にっこりと笑う春日。

ウ-ン癒し顔あいかわらずだね。


「ありがとう。覚えてたんだ。」


「当たり前、といっても買ってたのは郁人だったけどな。」


「うん。そうだったね。」

なんとなく胸が熱くなる。


「なんて顔してるんだよ。

 どうだ、驚いた?出勤初日いきなり実験させられて。」


「うん、でも緊張とかなくなって、あっという間に時間たった。」


「毎日こんなものだがんばってくれ、な、俺暇じゃないだろ。」

会社で見る春日は、郁人とは違うけど大人で眩しく感じた。

私が過した止まったままの1年は、他の人を大きく成長させていた。なんだか寂

しいなと感じてしまう。


「はい、失礼しました。

 あの、室長、お願いがあります。」


「なんだ、改まって。」


「実はベビ-シッタ-見つからなくて、7時には帰りたいんです。

 見つかるまででいいんですが、新人のうちから我儘いってすみません。」


「いいんじゃないか、3月中はバイト扱いだから、

 帰社時間は本人の自由だったと思うぞ。」


「え、ホント助かるなあ。」


「でも菜々美が心配する必要あるのか、親はちゃんといるだろ。」

結城パパにも郁人にも似たようなこと言われたな。傍から見るとわたしって

無理してるように見えるのかな?私が唯一あの家に留まれる正当な理由なのに。


「まあ、傍から見たらそうかもしれないけど、母を亡くした私がボロボロの

 時支えてくれたのは生まれたばかりの愛菜だったから。

 愛菜は、わたしのたった一人の肉親なんだよ。

 できることはしてあげたいと思っちゃうのって変なのかなあ。」

あ、やばい泣きそうっ


「そっか、いろいろ事情あるよな俺。

そういうの分かってなくて勝手なこと言ってごめん。。」

春日は、すまなそうな顔して、頭をポンポンと軽くたたく。


「ううん、心配してくれてるって分かってるから。ありがと。」


「なんかあったら頼っていいからな。

おおっと時間!午後もよろしく。さ.え.き.さ.ん。」


「はい、室長。」

春日、オン、オフがちゃんとできてるじゃん。



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