つないだ小指
「こちらでお茶どうぞ。」

鹿児島支社から来ていた年配の人にお茶をすすめる。

一緒に来た若い研究員はレクチャ-を受けていて。多分上司になるその人はぼん

やりとその様子を見つめていた。

「いただこう。君はここの?初めてみるが。」

「はい、この4月からの新人です。佐伯菜々美と申します。」

「ほう。」私の顔を見つめて、一口飲んで眼を細めた。

「あの、?」

「旨いな。仕事でこういうお茶が飲むのは久しぶりだよ。」

「あ、ありがとうございます。折角ならおいしいお茶を入れたいので家から持っ

てきたもので。、会社の茶葉ではこうはいきません。内緒ですよ。」

その人は、また、わたしをじっとみつめて、それから、とまどった口調で私に尋

ねた。

「君、佐伯さんの、君のお父さんは、もしかしたら佐伯信二さんでは?」

父の名前が出て驚いた。父が亡くなってもう15年以上もたつ。話題にしかもフルネ

-ムで聞くのは初めてかもしれない。

「はい、信二は私の父です。」

その人は眼を細めてつぶやいた。

「そうか、笑った顔が似ているからもしかしてと思ったよ。」

「私の父をご存知ですか?」

「ああ、親友だったから。」

「そうですか。では、会長ともお知り合いですか。」

「いや、そうか、佐伯と会長は親しかったと聞いてたな。

わたしは、同郷で高校までの付き合いだったが、

ちょっとした喧嘩してそのままになってしまってね、

会いたかったんだが、亡くなったそうだね。」

「はい、わたしが6歳の時に、、もう17年になります。」

「彼は幸せだったんだろうね。」

「はい、多分。父と母と私、3人幸せでした。」

その人は、安心したように笑った。

何かがあったのだろうが、あえて聞くつもりはなかった。

高校時代。

色んな事が合ってあたりまえだから。








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