つないだ小指
いいたいことだけ言って、郁人を叩きながら

子どものように声を出してわんわん泣いた。

困ったように立ちつくす郁人


「菜々美、わかったから、泣かないで。皆見てる。」

え?

皆って?

私達がいるフロアに人たちが私達の姿を驚いたように眺めながら

声をひそめながら話している声が耳に入ってきた。

『専務じゃない?』『あの子ラボの新人だよね。」

『何、どうしたの。専務と新入社員?』

『痴話げんか?え、あの二人付き合ってるのショック-』

『なに何の騒ぎ。」



わ-どうしよう、会社でこんなにおおさわぎしちゃって。

私は固まった。

また、郁人を困らせた。



「何やってんだよ。」

春日の声、


「ったく、お前らもう帰れ、上には俺が言っとく。

 佐伯もう引き返せね-ぞ。腹くくるんだな」


私は固まったまま顔を手で覆って、項垂れた。

わたし、何やってんのよ。


春日が、その場を収めてくれて。

私達は郁人の車で家に戻った。


スッと車の動きが止まった。


「菜々美降りて、話しよう。

 顔洗っておいで、なんか暖かいもの買ってくるよ。」


そこは、家の近くの公園だった。水道で顔を洗い、郁人から手渡されたタオルで

水分を拭き取る。ふんわりと暖かくて、郁人の香りがした。

何かさっきのことが夢だった気がした。でも、泣きはらして、重い瞼が、

現実であることを物語っている。



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