君と僕と。
――午前11時20分
希理が遊びに出てから2時間ほど。
――コンコン…
玄関から訪問者が来たことを告げる音が蛍詩の耳に届いた。
居間でぼんやりと足を崩して座っていた蛍詩はゆっくりと玄関を開く。
「こんにちは。こんな所まで御足労お掛けしました」
「構わんよ。私が事前に書簡を送った第三〇三海軍航空隊大佐・原田成一だ。
少し早く来すぎてしまったかな?」
引き戸の外には貫禄ある初老の男。
その後ろには眼鏡をかけ口髭を蓄えたふくよかな中年の男が控えていた。
二人とも中央に金糸の桜をあしらった正帽にダブルボタンの紺色ジャケット、紺色のスラックスという出で立ち。
この時代の男子なら知る者も多い、海軍士官の制服である。