君と僕と。
――8月21日
雲1つない快晴に恵まれた桜咲家の玄関には、桜をあしらった紺の正帽、紺の制服、短刀を手にした男が立っていた。
「はー!なかなかの男前やん!外身だけ」
「最後が余計や」
小さな少女と制服を身に纏った男は笑い合っている。
「…なぁ蛍詩」
出発の時が刻々と近づく中で、少女は蛍詩の大きな手を握る。
「蛍詩が帰ってくるまで、名前を貸してくれへんか?」
「……名前を?」
「そうや。うちは今日からあんたが帰ってくるまで桜咲希理じゃなくて桜咲蛍詩になる!」
突拍子のない申し入れに、思わず蛍詩は吹き出してしまった。
「あっははは!
ええよ。仕方ないから貸しといてやるわ」
小さな娘に名前を貸してしまった男は、握られた手を引いて抱き寄せた。