記憶混濁*甘い痛み*

「私…お兄様の、妻として…ちゃんと、つとめておりましたか?」


不安気に芳情院の顔を見つめ、友梨はロザリオを握りしめている。


そんな友梨を見て、芳情院は静かに微笑むと。


「ああ」


と、だけ応えて、また膝の上の雑誌を開いた。


開いたページの文字を追うフリをして、友梨の問いかけから逃れる。




……偽りの愛に応える事が、こんなに辛いとは思わなかった。愛しく思えば思う程、友梨に触れる事が怖くなる。

オレはまだ…条野の影に脅えている。


奴が友梨を取り戻す可能性など、燃え尽きた蝋に火を灯す位不可能に近い奇跡を起こすしかないというのに……

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