記憶混濁*甘い痛み*
「……スミマセン。後ろ姿が…知り合いに似ていたもので。深山咲さん、ですよね?失礼しました」
和音は友梨の表情を見て、上手に心の動揺を隠した。
思いがけない所で見かけたから、つい言い慣れた名前を呼んでしまった。
「…え?私に、似たひと、ですか…?あの、ゆうりさんって…おっしゃいますの?」
友梨は、心の中で自分を恥じた。
呼び捨てにされた、だなんて。私はなんて自意識が過剰な女なのだろう。
大体条野さんが……私の下の名前を知る筈がないんだわ。
「ええ。そんなに、多い日本名ではないですよね」
「…私のファーストネームも…ゆうり、と、いいますの。ですから…驚いてしまって。あの、申し訳ございません。私きっと…つまらない態度を」
「いえ、そんな。いきなり声をかけたオレが悪い。そもそも…いる筈がないんです。オレの、友梨が」
そう言って和音は、切なそうに視線を落とした。
他人を見る目で、友梨から見つめられるのは辛い。
「…あの…日本に、いらっしゃいますの?」
ふいに唇から出た言葉。どうして他人の事が気になるのか、正直解らなかった。
けれど目の前のこの美しい男の切ない瞳に魅せられる。