記憶混濁*甘い痛み*
------鍵を開けて、今夜も無機質な部屋に帰る。
暗闇に光る留守電の伝言は息子の和音を心配をする璃紗子のもので、聞くのが苦痛になり途中で消去する。
友梨と挨拶以外の会話をするようになって、和音の心と身体に新たな切なさが広がってゆく。
触れた指、無意識に誘う唇。
オレの知る友梨とほんの少し違う君に
オレはまた惹かれている。
「……友梨」
未だに友梨の左手に光るそれと揃いのリングを握りしめ、両手で顔を隠し、涙をこらえる。
記憶の欠片を探し彼女の姿を掴まえ何とか壁にもたれて正気を保つ。
------長い夜は
まだ、明けない。