記憶混濁*甘い痛み*
-和音-カズネ-
こめかみの痛みで目が醒める。
ここ何週間か続く最悪な起き方にもさすがに慣れて、和音は軽く頭を振ると、鳴る前の目覚ましのアラームを解除する。
頭の痛みには慣れても、彼女のぬくもりがない事にはまだ慣れない。
ある理由から外されたままのマリッジリングを手に取り久し振りに指にはめると、笑える程ゆるい。
リングの裏の刻印は1年と3ヶ月前。
『ゴメン、ゴメンね、和音くん。友梨は多分もう和音くんとは生きられない』
彼女の姉の万里子が泣きながら自分に告げた言葉がよみがえる。
『和音が辛いだろ?友梨じゃなく、辛いのは和音の方だよ』
そして、高校時代からの親友の忍の言葉も。
愛があれば、奇跡が起こるなんて嘘だ。
いくら愛しても
愛しても、どうにもならない事もある。
『和音先輩、もしも友梨があなたをおいて死んだら、その時は私の事なんて忘れて、私より素敵な女性を見つけて、幸せになって』
その、言葉を
あの夜君は予想して言っていたのだろうか?
神を愛し恐れていた君の身に降りかかった
あの日の、悪夢のような出来事を------