記憶混濁*甘い痛み*

柔らかな日差しが、窓から優しく2人に微笑みかけていた。


友梨が深山咲を飛び出して、和音とささやかな結婚式を挙げてから8ヶ月。


和音は大学に通いながら、友人と立ち上げた会社の仕事に勉強に、多忙を極めていた。


けれど家に帰れば、穏やかで満ち足りた、まるで甘いシロップに浸かっているかのような日々。


何が欲しい訳でもない。それまで自由に逢う事が許されなかった2人には、ただお互いを見て微笑みあえる……それこそが幸せだった。


そんな中、久しぶりのちゃんとした休日の昼前に、日本からの国際電話。


「……?」


3人掛けのソファーで、友梨は和音の膝に頭をのせて横になっていた。


和音がこちら(NY)に来て借りた部屋は、コンクリートの打ちっぱなしで、外観は古いと言うよりレトロなアパートメント。

内装もリフォーム済みで、いわゆる日本でいうデザイナーズマンションのようだ。


築年数が古いからという理由で2DKを驚く程の値段で借りている。

けれど、そのアパートメントとも後何日かでお別れ。


2人は、子供の為に庭付きの一軒家に引っ越すのだ。


「和音先輩?だぁれ?」


とろんとした可愛い声。ウトウトしていた所を着信音で起こされたらしい。


和音はそっと友梨の髪を撫でると。


「忍。友梨も話す?」



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