記憶混濁*甘い痛み*
「シーナと美弥子先輩」
「りょーかい」
和音は友梨を左手で抱きながら、肩と耳で携帯を押さえ、右手でDVDの音量を下げる。画面には胎教に良いと言われるイルカの映像が流れている。
『着床する』のと『妊娠する』のと『出産する』のは違う。
友梨が難しいのは妊娠し、出産する事。
今現在、妊娠4ヶ月で何とか通常の生活を続けているが、担当医には5ヶ月目以降は念の為に入院した方が良いのではないかと言われている。
友梨はイヤイヤ言っているが、和音は医者の意見に賛成だった。
愛しい妻に、万が一の事もないように。念には念を、石橋なんて渡らないで済むなら、その方が良いのだ。
『和音さぁん!シーナでーす!いつもルイジのバカがすみません。友梨元気ですか?』
忍との近状報告が終わると、友梨の親友であるシーナが電話口に出た。ルイジと言うのは、シーナの恋人であり和音の親友でもあるお祭り男だ。
「元気…まではいかないけど、悪くはないみたいかな。最近貧血が出て眠い眠い言ってはいるけど…まあそれは想定内だからね」
「シーナ?友梨も話す」
和音の耳元に唇を近付ける友梨。和音はゾクッとして。
「友梨ちゃん、欲情させないでくれる?禁欲生活中にキツイんだけど」
と、言って、通話部を押さえて携帯を友梨に渡す。