記憶混濁*甘い痛み*

「…おにい…さ、ま!友梨の…」


「…ああ、どうした?」


「友梨の…身体…へん…な、の…」


和音と指が触れて動揺し、自分からねだったキスの途中で友梨は唇を離し

芳情院に抱きついて涙を流す。


和音に愛された記憶は消えても、身体に感覚が刻み込まれている。


和音に大切に抱かれ愛された身体に、芳情院とのくちづけで甘い火種が蘇る。


かつて和音に『あなたじゃなきゃイヤ』と告げた甘い声で今は『お兄様』と呼び華奢な指は芳情院の肩を掻く。


「イヤ!……恐い」


肩から胸に降りた手の平の感触に、友梨はビクリと身体を震わせた。


芳情院もびくっとして、すぐに触れていた手を離し、友梨を見つめる。


涙に濡れる友梨の瞳は、あの日の彼女を思い起こさせた。


芳情院の胸がジワリと締めつけられるように痛む。


「ゴメンナサイお兄様…私っ…」


芳情院の愛撫を受け入れられない事に、友梨は惑い苦しんでいる。



こんなに大好きで、愛しい愛しいお兄様。


結婚していたのなら…当たり前の行為の筈なのに…でも、私は… 


「覚えて…いないんです…私、お兄様に愛されていた筈なのに…覚えていない…覚えていないの。私…お兄様を…裏切っている…」
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