記憶混濁*甘い痛み*
-芳情院-ホウジョウイン-
ピクリと、今にも血管が浮き出そうなほど白い瞼が動き、眠り姫は目覚める。
「…お兄様?昨夜も病院に泊まって下さったの?」
僕を見つめる瞳に、迷いや惑いは感じられない。
大丈夫だ……彼女の中に、奴はいない。
「ああ。愛しい妻が心配だからね」
芳情院はそう言うと、冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターを出してグラスに注ぎ、友梨に渡す。
友梨は、ありがとうございます、と言って、冷たい水をコクリコクリと飲みほした。
「オイシイ…やっぱり、冷たいのがすき」
友梨はグラスを置くと、ベッドに座る芳情院の背中に手を回した。
「どうした友梨。何も怖い事などないよ?大丈夫だ」
芳情院は優しく友梨を抱きしめると、そっと友梨の髪にキスをした。
「お兄様…お兄様は、どうして友梨の考えている事が解るんですか?」
友梨はホロリと涙を零す。