記憶混濁*甘い痛み*
『こんなに苦しいなら…いっそ彼女の手にかかって死んでしまいたい』
狩谷は、以前聞いた和音の言葉を思い出す。
『カトリックでは自殺は禁忌で…友梨から絶対にしてはダメだと言われています。それをしたらオレは未来永劫友梨を抱きしめる事が出来なくなると。けれど、今この1分1秒を生きる事が、たまらなく辛い。それでも自ら命を断つ事が出来ないのなら……オレは友梨に殺されたい』
互いに相手を殺して神に裁かれ、2人で永久を彷徨うなら、それでイイ。
そう言って彼は、触れる事の出来ない妻の暮らす病室の窓を見つめ、美しい顔を歪ませた。
殺し合う事を望む夫と、再び愛し合う事を願う妻と、想い合う気持ちの先は、きっと互いへの恋情に他ならない。
2人が再び愛し合えたとして
つながる未来の先に待つのは、絶望と言う名の終止符しかないのかもしれないのに------