記憶混濁*甘い痛み*

ここ数日、友梨は泣いてばかりいる。


狩谷に聞いてその理由を知っている芳情院は、だからといって何をする事も出来なかった。


自分はあくまで仮の夫で、全ての選択権は友梨にある。


けれど友梨の性格上、例え記憶が戻っても、条野の元へ帰るとは考えにくい。


そして記憶が戻らずに条野を愛した場合 


友梨はどれだけ罪の意識に苛まれる事になるのだろう 


オレという『夫』のいる身で、不貞をはたらいた事になるのだから。


愛しい『妻』は、今日も病室で、ただオレに寄り添い重ねる唇に涙を流す。


「お兄様…すき。すきよ?」


まるで言葉にしないと想いが消えてしまうかのように、くちづけを交わす度に告げられる言葉。





もしかして友梨は、そう芳情院に告げる事によって、自分自身にとけない呪文をかけているのかもしれない……
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