記憶混濁*甘い痛み*
そうぶちまけたい気持ちを押さえ込み、和音は友梨から目をそらす。
だって。
ホントは知ってる。
許せないのは、オレだけでなく、友梨も同じだという事。
イヤ、違う。
オレより、友梨の思いの方が強い。
オレを憎むのを恐れ、彼女は記憶を閉じたんだ。
優しい、どこまでも優しい君は。
自分勝手な、君の夫を、憎めずに…………
強くなる風は、湿り気をおびてきていた。
もうそろそろ、雨が降るのかもしれない。
和音は空を見上げ、何も言えないまま、軽く会釈をして友梨の側を通り過ぎようとした。
まだ、もう少し。
もう少しだけ。
やり直す為の確実な解答を手に入れるまでは。
……話せない。
けれど、そんな和音の態度を見て、友梨は。
「条野さん…?イヤ…」
と、言って、通り過ぎようとする和音の腕をそっと取ってしまった。