記憶混濁*甘い痛み*

「…深山咲、さん…?」




友梨の感情は、一瞬触れられた腕から、和音の心臓までゾクリと響いてきた。


彼女の、呼吸が。

彼女の、熱が。

彼女の、欲望が。


まるで心を覗いているかのようにありありと解ってしまう。


けれど、それと同時に『その』感覚を恐れて、従順な神の子羊でありたい妻は涙を流す。




誘って、引きつけて、つき離して  


無意識なんて嘘だろ?

完全にオレを誘っているクセに。


「条野さん…?私…ただ貴方に、謝り、たくて」


嘘つき。


「ずっと、謝りたくて」


だから、嘘だろ。


「貴方に、逢いたくて…」


そう、それが本心。


「……ゴメン、なさい。どうか私をお許しになって……」


何に対して許せばイイ?


「貴方が、奥様を大切に思っているのに 私、誤解させるような、態度を…」


だからオレの『奥様』はオマエだよ。


「お願い、です。どうか私を汚れた女だとは思わないで下さいませ……私は、条野さんを惑わすつもりは……」




「……嘘だろ」


泣きながら和音に触れたくて、迷っていた友梨の浮いた右腕を。


「どこまでも勝手な女だな」


和音は、強く引いた。

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