記憶混濁*甘い痛み*

友梨の頬に、和音の手の甲に雨が当たり

和音はハッとして我に返る。


友梨は急に唇を離されてどうすればいいのか解らずに、心細そうな顔をした。


和音は。


『彼女』


が、誰なのか、一瞬迷い、けれど彼女の唇から一度も。


『和音先輩』


と、呼ばれていない事で、彼女が深山咲友梨だと確信する。




「…中に…風邪をひきます」


「……っ」


たった今まで自分の唇を吸い、抱き合っていたクセに、いきなり他人行儀な態度に戻られて、友梨は両手で口元を押さえ、呆然としてしまう。



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