記憶混濁*甘い痛み*
「条野……さん?」
ポツポツと、徐々に激しくなる雨よりも、友梨は目の前の和音の方が気になって仕方がない。
私……この人の事が
でも、私……お兄様を
「私……」
自分自身の行動の重さに気付き、友梨は止まっていた涙を再び零した。
「私……罪を……」
「……」
「私……なんてことを……」
涙はホロホロと幾筋もの河を作り、とめどなく溢れ出した。
心と身体の反応に、ようやく『理性』が追いついた。
和音に無理矢理引き寄せられたとはいえ、自分から唇を合わせ深いキスをねだった。
触れた唇の心地よさに…抱かれた腕の温もりに…身体の奥の甘い痺れが目の前の男を求めて離せなかった。
芳情院とのくちづけでは感じ得ない、どうにも節制のきかない狂暴な甘い痺れに惑わされて、夫以外の男とくちづけを交わし抱き合ってしまった。
でも…違う。
惑わされたのではない…私が、彼を惑わしたかった…それが正解だ。
私は……汚い……