記憶混濁*甘い痛み*

「…ゴメン、なさい…」


友梨は、ストールの下のロザリオを両手で握りしめて手を組み、和音に頭を下げた。


「友梨…?」


「お願い…お願いです!今の事はお忘れになって!私の身体には私以外の『何か』が住み着いておりますの…今貴方の唇に触れたのは私ではない…!私ではないんです!」


更に友梨はそう続けて、和音の足元に跪く。


「友梨…?やめろ!」


「お止めにならないで!お願い、お願いですから…お忘れになると約束して下さいませ…!」


強くなる雨に、友梨のヴェルベット素材で出来た品の良い白いワンピースが濡れる。


水を含む事で布地は肌に張り付き、彼女の細い肩の輪郭を露わにさせる。



半年前より 痩せたのはオマエも同じだろ?



和音は友梨に気付かれないように苦笑する。



相変わらず人の事ばかり気にして…だからオレみたいな男に掴まるんだ…高校時代と同じだよ。

お互いに何の成長もない恋愛を繰り返している。

ただ違うのは……2人が夫婦だという事だけだ。

本来ならオレがオマエを好きで、オマエがオレを好きなら物語は終わりだろ?


……なのに、オレ達は

また此処から始めないとイケナイんだな

お互いの感情を確かめあったその場所から

少し下がった、マイナスのラインまで。
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