記憶混濁*甘い痛み*
短大時代から友梨が気に入って使っていたCELINEのストールは
走って行った彼女の肩から滑り落ちて雨水で汚れ
2人の思い出まで汚されてしまったかのようだ。
和音は跪いてズルズルと大判のストールを引き寄せ
GUCCIのコートが汚れるのも気にせずに、まるで愛しい妻をそうするかのように抱きしめた。
ストールには先ほどまで腕の中にいた、愛しい妻の甘い香りが、うすく残っていた。
あのまま連れ去っていたら……結果は、変わっていたのだろうか。
心からの接触にこだわらず、身体からの回線で、無理矢理意識を開かせて。
「……ユダ(裏切り者)は、オレの方か……」
フッと、疲れたように苦笑すると、和音はストールを持って歩き出した。
病院と芳情院に、連絡をしなければ------