記憶混濁*甘い痛み*
------数十分後
「……友梨!」
芳情院が礼拝堂に着くと、和音の予想通りに友梨が倒れ込んでいた。
……奴からの、連絡に感謝だ。
条野の事はきっと一生許せないが、友梨を想う気持ちだけは認めてやってもいい。
友梨の為に、芳情院は病院のすぐ近くに部屋を借りていた。
仕事も金も、どうでも良かった。
ただ毎日を、友梨の為だけに生きるのだ。
「友梨、大丈夫か?」
雨に濡れた愛しい『妻』の身体は石造りの床でさらに冷え
ここの所、神経が不安定だった彼女の身体に熱をもたせた。
芳情院が抱き起こしても、友梨はぐったりとして短い呼吸でうつろに瞳を開くだけだ。
「友梨……!」
友梨……何をそんなに悩み、意識を無くす程許しを請おうとする?
オマエを苦しめているのがオレただ1人だけならば、オマエの為にこんな命など今すぐに差し出すものを。
……けれど友梨
オマエが本当の意味で怖がっているのは、オレではなく、条野でもない。
だからオレは、オマエをおいては逝けないよ。
「友梨……しばらく我慢しておくれ」
芳情院は友梨にジャケットをかけて抱き上げると、急ぎ足で病院へと連れ帰った……