記憶混濁*甘い痛み*

その後すぐ、院内に戻った芳情院は、用意されていた治療用のベッドに友梨を横にして、離れようとした。


すると、友梨は虚ろな瞳からポロポロと涙を零して、芳情院の服の袖を弱々しく指先で掴んだ。


「…友梨…?」


「……?お…にい…さ、ま…?」


友梨は呼吸が荒く、過呼吸になってしまっている。


「ここ…は…どこ…?イヤ…おにい…さま?友梨…を、1人に…しないで…」


友梨は震える指で、芳情院の服の袖を掴んで離さない。


「深山咲さん?狩谷です。コイツらはerのクリフと、ダグラス。見たことありますよね?」


狩谷が冷静に声をかける。


「深山咲さん、呼吸が……速いな。ゆっくり、ゆっくりですよ?ほら、指先が震えている。痺れが出ているでしょう?辛くないですか?」


「……しらない。みんな、しらない。おにいさまぁ…やだ。ゆうりのそば、はなれないでよぉ!」


小さな、声で。


けれど、しっかりとした、拒絶。


「そうか、解りました深山咲さん。では、このままで、治療を……」


狩谷がそう、言い終わる前に

クリフの姿を見た友梨が、いきなり悲鳴を上げた。






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