記憶混濁*甘い痛み*
「……やだ…やだやだ…来ないで……友梨に触らないで……いや……!」
カタカタと震えながら、友梨は焦点の合わない瞳で、小さく何かを呟いている。
『アカイ·カミ』
『アカイ·フク』
『アカイ·ユビ』
『アカイ·アカイ·アカイ』
『アカイノハ·ワタシ?』
『ワタシノ·オナカ?』
混乱·混乱·混乱
あの日ワタシは
玄関のドアを開けて
あの人を『出迎えた?』
あの人はワタシを抱きしめて
あの人はワタシを好きだと言って
誰よりもワタシを好きだと言って
ワタシの唇を塞ぎ
左手でワタシの腰を抱き(そう、あの人は左利きだった)
ワタシのシャツのボタンを外し(ワタシは何故か抵抗せずに)
そして
そして
そして
アカイ 血のように アカイ
「…………ねぇ、ゆうりの、あかちゃんは?」
ふと瞳に力が戻り、友梨は、しっかりとした口調で、芳情院に問いかける。