記憶混濁*甘い痛み*
-友梨-ユウリ-
怪我の治療と血液の検査が終わると、また長い1日が始まる。
廊下の時計を見ると、まだ10時前。友梨はつまらなそうに溜息をついて病室への道を歩き出した。
芳情院は朝帰ると、夜までは来院する時間がない。
日本に戻らずに友梨に付き添っている為、仕事の量は飽和状態だ。
どうしてこんな事になってしまったのかしら……イエスさまは、私に何を悔い改めよとおっしゃっているの?
病室に戻ると、友梨は洋服に着替えてベッドメイキングをする。
ホスピスタイプの病院はホテルのようで陰気な感じはしないものの
寝たきりではないのに1日寝着を着たままで居るのは嫌だった。
窓を開けて空気の入れ替えをすると、夏の香りがした。
ふと、下を見ると
担当医の狩谷と病院で知り合いになった日本人男性……条野和音の姿が見えた。
何やら深刻そうな顔で話しをしている。
綺麗な顔が歪むのを見ると、友梨の胸まで痛むような不思議な感じがした。
ほんの五秒位、見つめていただけなのに
何故か気付いたらしい和音と、友梨の瞳が合った。